第3章 ケイン式飛行機
スティーブン・ケインは自宅の庭に作業場を設け、毎晩新型飛行機の開発に励んでいた。
1日4、5時間しか作業できないため進捗は遅かったが、彼の情熱は衰えることを知らなかった。
そんな折、ドミンゲス・フィールドで航空ショーが開催された。
フランスの飛行士ポーランが世界を驚かせる飛行を成功させ、観客を熱狂させたのだ。
オリッサとスティーブンは毎日欠かさず見学に訪れた。
ある日、観客席で隣に座ったのは、スティーブンが自動車工場でよく会う運転手、アーチ・ホクシーだった。
「へぇ、ホクシーさんも飛行機に興味あるんだ」とスティーブンが声をかけると、
「ああ、初めて見たよ。すごいもんだな」とホクシーは目を輝かせて答えた。
誰も予想だにしなかったが、このホクシーが1年後、世界最高の飛行士になるとは。
航空ショーを見終えたケイン兄妹は、興奮冷めやらぬまま帰路についた。
「ねえ、兄さん」とオリッサが真剣な表情で切り出した。
「あなたも本気で飛行機開発に取り組むべきよ」
「そうだな......」スティーブンも考え込んだ。
「でも、仕事は?」
「私が働くわ。あなたは夢に集中して」
こうしてスティーブンは仕事を辞め、飛行機開発に専念することになった。
彼は特許申請を行う一方、アイデアを盗まれないよう細心の注意を払った。
オリッサ以外、庭の作業場に立ち入ることは許されなかった。
オリッサも懸命に職を探し、ついにバートン氏の秘書として採用された。
しかし、開発費用はかさむ一方。
オリッサは家計のやりくりに頭を悩ませた。
「お母さん、メイドさんなしで大丈夫?」と尋ねると、
「ええ、構わないわ。あなたたちのためよ」と快く答えてくれた。
夏になると、モーターのテストが成功し、いよいよ翼の製作と自動安定装置の完成に取り掛かる段階に入った。
ある夜、スティーブンが作業を終えると、オリッサに声をかけた。
「よし、あと3日くらいで初飛行できそうだ。日曜まで待つ? それとも平日に休みを取る?」
「日曜はダメよ」とオリッサは即座に答えた。
「どんなに熱心でも、日曜作業は認めないんだから」
「わかったよ」とスティーブンは肩をすくめた。
「でも会社は? 忙しいんじゃなかったっけ?」
「うん、バートン氏も今日はちょっと機嫌が悪かったけど......」オリッサは少し考えてから続けた。
「でも大丈夫、なんとかするわ」
「そのバートン氏って、どんな人なの?」とスティーブンは興味深そうに尋ねた。
オリッサは目を細めて答えた。
「そうねぇ……ビジネスの世界では評判がいいみたい。不動産の大物らしいわ。でもね、とにかく変わってるの」
「へえ、どんなふう?」
「まず、すっごくぼんやりしてる。それに......」オリッサは少し声を潜めた。
「昨日なんて、気に入らないからって顧客に土地を売るのを拒否したのよ」
「えっ、マジで?」スティーブンは驚いて目を丸くした。
オリッサは続けた。
「ある日、お客さんから600ドル多く取ってたの。指摘したら『わざとやった』って。そのお客さんが横柄だったからだって」
「へぇ......」スティーブンは感心したような顔をした。
「意外といい人なのかな?」
「どうだろう」オリッサは首をかしげた。
「『昔、重大な罪を犯したから、これは償いの一部だ』って言ってたわ」
「おっ」スティーブンの目が輝いた。
「ミステリアスじゃん。もしかして元犯罪者?」
「まさか!」オリッサは笑いながら兄さんの頭を軽く叩いた。
「でもね、本当のところはよく分からないの。バートン氏って、本当に不思議な人なのよ」
こうして、ケイン兄妹の夢への挑戦と、謎めいたバートン氏との出会いが、彼らの人生に思わぬ展開をもたらそうとしていた。
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原作:Lyman Frank Baum『TheFlyingGirl』
出典:Project Gutenberg (www.gutenberg.org)
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