第6章 暴れ馬のような複葉機
スティーブン・ケインは、3日間ほとんど眠れていなかった。
木曜の夕方、オリッサが帰宅すると、彼は車まで飛んできて、興奮気味に告げた。
「オリッサ、できたぞ!飛行機が完成したんだ!」
「本当!?」オリッサの目が輝いた。
「すごいじゃない、スティーブ!」
「午後ずっと調整してたんだ。もう試験飛行できるよ」
スティーブンは興奮を抑えきれない様子だった。
「わかったわ」オリッサは元気よく答えた。
「じゃあ、明日の朝早くやってみない?4時半くらいから明るくなるはずよ」
「それ以上待てないよ。マーストンさんの牧場でやろうと思うんだ」
「でも、あそこに牛がいるんじゃ...」
「大丈夫、今はいないんだ。ここ数日、閉じ込められてるらしいよ。あそこが一番広くて理想的なんだ」
「じゃあ、早速見に行きましょ!」オリッサはスキップしながら歩き出した。
大きなキャンバス張りの小屋には、真っ白な翼を広げた飛行機が鎮座していた。
「わあ...」オリッサはため息をついた。「本当に素敵...」
「まあ、飛べればの話だけどね」スティーブンは少し照れくさそうに言った。
「もちろん飛ぶわよ!」彼女は声を弾ませた。「この子なら月まで飛んでいけそう」
「魔女なら箒一本あればいいんだけどね」スティーブンはニヤリと笑った。
「でも、君はそういう魔女じゃないか」
「もう、からかわないでよ」オリッサは軽く兄の腕を叩いた。
「それより、名前は決めたの?普通の複葉機とは違うんだから、かっこいい名前がいいわ」
「『ケイン式飛行機』...どうかな?」
「いいじゃない!斬新な響きよ」オリッサは拍手した。「ああ、スティーブ!今夜試せないかしら?月明かりがあるわ」
彼は首を振りながら優しく微笑んだ。
「無理だよ。君も僕も疲れてるし、ゆっくり休もう。明日のフライトに備えないとね」
「そっか...」オリッサは少し残念そうだった。「お母さんには言わない方がいい?」
「うん、成功してからのお楽しみにしよう」
オリッサもそれに頷いた。兄妹は魅力的な発明品から離れ、家に戻った。
スティーブンは疲れ果てていて、オリッサが夕食の準備をしている間に椅子で眠ってしまった。
その夜、オリッサはなかなか寝つけなかった。
目を閉じれば、観客の熱狂的な歓声や、世界中で語られるスティーブンの名前が頭に浮かんだ。
「兄さんのおかげで、これからは良い暮らしが手に入るわ」彼女は小さくつぶやいた。「もう借金の心配もしなくていいのよ」
夜明け前、オリッサはホットコーヒーを用意した。
急いで飲み干すと、二人は格納庫に駆け込んだ。
「よく眠れた?」オリッサが尋ねた。
「うん、丸太のように」スティーブンは笑顔で答えた。
朝日がゆっくりと昇り始める中、彼らは慎重に飛行機を庭に押し出した。
マーストンさんの牧場のフェンスまで運び、スティーブンが事前に用意していたようにフェンスの一部を取り外して通した。
二人きりの静かな朝だった。
「ねえ、この離陸装置がすごいんだ」スティーブンは飛行機の最終チェックをしながら、少し自慢げに言った。
「他の飛行機みたいに大勢で押さえつける必要がないんだよ」
「へえ、どうやってるの?」オリッサは興味深そうに尋ねた。
「簡単に言うとね、モーターの力を一時的に別のところに逃がすんだ。そして、準備ができたら一気にプロペラに切り替える。そうすればロケットみたいに飛び立てるんだよ」
「すごい!」オリッサは感嘆の声を上げた。
スティーブンは妹にウィンクして見せ、座席に登った。
「怖くない?」オリッサは少し心配そうに尋ねた。
「怖い?自分で作ったものだよ、そんなはずないさ!」スティーブンは胸を張った。
「あんまり高く飛ばないでね...」
「大丈夫だって。よーし、行くぞ!」
エンジンが唸り、徐々に速度を上げていく。
飛行機は今にも飛び立ちそうに震えていた。
スティーブンがクラッチを入れると、機体は勢いよく飛び出した。
しかし、予想外のことが起こった。
飛行機は上昇せず、まるで暴れ馬のように跳ね回り始めたのだ。
オリッサは息をのんで見つめていた。
スティーブンは必死に操縦しようとしたが、飛行機は彼の指示に従わない。
ガタガタと揺れ、時折急降下しては再び跳ね上がる。
やっとのことで止まったときには、舵は壊れ、翼の骨組みが折れていた。
「...」
兄妹は言葉もなく、壊れた飛行機を見つめていた。
スティーブンの表情には失望の色が濃かった。
「まあ...」彼は深いため息をついた。「最初から完璧なわけないよな」
「そうよ」オリッサは優しく兄の肩に手を置いた。「これは始まりにすぎないわ」
「でも、飛ばなきゃいけないはずなんだ」スティーブンは眉をひそめた。
「飛ぶわよ、必ず」オリッサは力強く言った。「修理できるでしょ?」
「ああ...ちょっと時間がかかるけどね」
「じゃあ、明日の朝また挑戦しましょう。きっとうまくいくわ」
スティーブンは妹の言葉に少し勇気づけられたようだった。
「そうだな...」彼は微笑んだ。
「何が悪かったか、きっと分かるはずだ。オリッサ、僕を信じてくれてありがとう」
「当たり前よ」オリッサは明るく答えた。「さあ、朝ごはんの準備をしましょ。今日は特別にパンケーキを焼くわ」
兄妹は肩を寄せ合って家に向かった。
失敗にもかかわらず、二人の表情には希望の光が宿っていた。
新たな挑戦への決意が、朝日とともに輝いていた。
---
原作:Lyman Frank Baum『TheFlyingGirl』
出典:Project Gutenberg (www.gutenberg.org)
本ブログ記事は、プロジェクト・グーテンベルグが提供する著作権切れの作品を基に意訳・翻案しています。
This eBook is for the use of anyone anywhere at no cost and with almost no restrictions whatsoever. You may copy it, give it away or re-use it under the terms of the Project Gutenberg License included with this eBook or online at www.gutenberg.org