隠れた名作を自由翻訳で楽しむ発見の旅

世界の古典をAIで意訳して良書を探します

『Indian Fairy Tales』不思議なバイオリン

昔々、ある村に7人の兄と1人の妹が暮らしていました。

兄たちは皆結婚していましたが、不思議なことに家族の食事を作っていたのは兄嫁たちではなく、未婚の妹でした。

妹は毎日家に残り家事をこなしていましたが、それが兄嫁たちの不満の種になっていました。

「あの子ったら、私たちは畑仕事で汗を流しているのに、家で楽をしてばかりいるわ」

「そうよね。しかも食事の支度が遅いこともあるし」

兄嫁たちは密かに集まっては、愚痴をこぼしていました。

ついに彼女たちは妹を台所から追い出すための策略を考えます。村はずれの森に住むという不思議な精霊・ボンガに願掛けをし、その力を借りることにしたのです。

「お願い、ボンガさま。正午に妹が水汲みに来たら、こんないたずらをしてください。」

兄嫁たちは細かな指示を出しました。

「水がみるみる消えて、また少しずつ現れるようにして。そうすれば妹は水汲みに手間取るはず。」

「そうそう、それで決まりね。水は絶対に彼女の桶には入らないようにして。その代わり、妹をあなたのお嫁さんにしても構いませんわ。」

ボンガはその願いを聞き入れました。

その日の正午、妹が井戸に水を汲みに行くと、不思議なことが起こりました。

目の前の水が突然消えたのです。驚いた妹は泣き出してしまいましたが、しばらくすると水面がゆっくりと上がってきました。

水が足首まで来たとき、妹は桶を水に入れようとしましたが、どういうわけか桶が水面を突き抜けません。

不安になった妹は、兄を呼ぶ歌を歌い始めました。

「お兄さま、お兄さま
水は足首まで来てるのに
桶が水に入らないの」

しかし返事はありません。

水はさらに上がり続け、膝まで来ました。

妹は再び歌います。

「お兄さま、お兄さま
水は膝まで来てるのに
桶が水に入らないの」

それでも誰も来る気配はありません。

水は容赦なく上がり続け、今度は腰まで来ました。

「お兄さま、お兄さま
水は腰まで来てるのに
桶が水に入らないの」

さらに首まで水かさが増えると、妹の声は切迫したものになりました。

「お兄さま、お兄さま
水は首まで来てるのに
桶が水に入らないの」

ついに水は人の背丈ほどになり、妹は溺れそうになりながら最後の歌を歌いました。

「お兄さま、お兄さま
水は天まで届きそう
やっと桶に水が入ったわ」

そう歌い終えるや否や、妹は桶と共に水中へと沈んでいきました。

ボンガは約束通り、溺れた妹を自分と同じ精霊に変え、連れ去ってしまいました。

時は流れ、妹が消えた池の土手に一本の竹が生えてきました。

実はこれこそが、ボンガに変えられた妹の姿だったのです。その竹は驚くほどの速さで成長し、やがて見事な大竹となりました。

ある日、その道を通りかかった旅の修行者が竹を見つけ、独り言を呟きました。

「おや、これは素晴らしい竹だ。きっと良い音の出るバイオリンが作れるぞ。」

修行者は斧を持って竹を切りに来ました。しかし斧を振り上げた瞬間、不思議なことが起こります。

「根元は切らないで。もっと上の方を切って。」

竹から声が聞こえてきたのです。

修行者が言われた通り上の方に斧を構えると、今度は逆のことを言い出しました。

「上の方は切らないで。根元を切って。」

困った修行者が再び根元に斧を向けると、またもや竹は主張を変えます。

「根元は切らないで。上の方を切って。」

修行者はようやく気付きました。

「なるほど、これはボンガのいたずらに違いない。」

怒った修行者は迷わず竹を根元から切り倒し、見事なバイオリンを作り上げました。

出来上がったバイオリンは、これまでに聞いたことのない美しい音色を奏でました。修行者は物乞いの旅に出る時もこのバイオリンを持ち歩き、その演奏のおかげで毎晩たくさんの施しを得られるようになりました。

修行者は時々、妹の兄たちの家の前で演奏することがありました。不思議なことに、このバイオリンの音色は兄たちの心に強く響きました。

まるで誰かが悲しみを訴えているかのような切ない調べに、涙を流す兄もいたほどです。

長男は修行者にバイオリンを譲ってくれるよう願い出ました。

「1年分の生活費を差し上げますから、どうかそのバイオリンを。」

しかし修行者はこのバイオリンの価値をよく知っていたため、その申し出を断りました。

ある日、修行者は村の長の家を訪れ、いくつか曲を演奏した後で食事を所望しました。長の家の人々もバイオリンを買い取ろうとしましたが、修行者は首を横に振ります。

「このバイオリンは私の生活の糧。売るわけにはいきません。」

そこで彼らは作戦を変え、たっぷりの食事と酒を振る舞いました。

修行者が酔いつぶれると、彼らは素早くバイオリンをすり替えてしまいました。

目を覚ました修行者は自分のバイオリンがないことに気付き、返してくれるよう頼みましたが、彼らは知らないふりを続けました。

仕方なく修行者は、大切なバイオリンを置き去りにして去っていきました。

長の息子は音楽の才能があり、盗んだバイオリンを巧みに演奏して、誰もが聴き惚れる音色を奏でました。

ところが、家族全員が畑仕事に出かけている間、不思議なことが起こり始めます。バイオリンの中から一人の美しい娘が現れ、家族の食事を作り始めたのです。

娘は自分の分を食べた後、長男の息子の分をベッドの下に置き、こっそりとバイオリンの中に戻っていきました。

これが毎日続いたため、家族は息子に好意を寄せる娘が内緒で世話を焼いているのだろうと考え、特に気にしませんでした。

しかし息子は気になって仕方ありません。

「今日こそ正体を突き止めてやる。こんなことをして、みんなの前で恥をかかせるなんて。」

そう決意した息子は、薪の山の陰に隠れて待ち伏せることにしました。

やがてバイオリンから一人の娘が現れ、髪を整え始めます。身支度を終えると、いつものように食事を作り始めます。

自分の分を食べ終え、息子の分をベッドの下に置こうとした時...息子は隠れ場所から飛び出し、娘を抱きしめました。

驚いた娘は叫びます。

「やめて!あなたは私と結婚できない身分かもしれないわ。」

しかし息子は優しく答えました。

「関係ないさ。今日からぼくたちは一つだよ。」

こうして二人は愛を語り合うようになりました。

夕方、家族が帰ってくると、娘が人間とボンガの血を引く不思議な存在だと分かり、みな大喜びしました。

時が流れ、ボンガの娘の実家が貧しくなり、兄たちが長の家を訪ねてくることがありました。

娘は一目で兄たちだと分かりましたが、兄たちは妹だと気付きません。娘は兄たちに水を運び、食事を用意しました。

そして兄たちの傍らに座り、静かに語り始めたのです。

兄嫁たちにされた仕打ち、そして自分の身に起きた出来事のすべてを。

最後にこう付け加えました。

「お兄さまたちは全て知っていたはず。なのに私を助けてはくれなかった。」

それが、妹の選んだ唯一の復讐でした。

 

---

原作:Joseph Jacobs and John Dickson Batten『Indian Fairy Tales』
出典:Project Gutenberg (www.gutenberg.org)
https://www.gutenberg.org/ebooks/7128

本ブログ記事は、プロジェクト・グーテンベルグが提供する著作権切れの作品を基に意訳・翻案しています。